Autographic 第二十七話:病院

創作長編小説

 朝、目を覚ますと鮭を焼く良い匂いが漂ってくる。眠い目を擦りながら布団から抜け出し、匂いを辿りながら居間へ行くと、おじさんが囲炉裏で味噌汁を作っていた。

「おう秀人、起きてきたか」

「おはよう、おじさん」

「さっき和美から電話があった。八時ごろ到着するってよ」

「八時!? じゃあ早く帰る準備しなきゃ」

 今の時刻は朝七時ちょっと前。母さんが迎えに来る時間があまりに早いのに驚き、僕は急いで朝食と着替えを済ませた。

 部屋で荷物をまとめた後、犬たちに餌を与えるため納屋へ行き、昨日獲った鹿肉を小分けにしていると、餌を催促する犬たちの吠える声が聞こえてくる。

「ロボ! ゴロー! ハナ!」

 檻の間から鹿肉を差し込むと、争うように肉に食いついてくる三匹のうち、まずゴローが鹿肉を奪い、次いでロボ、ハナが鹿肉をくわえていった。犬たちは檻の中で寝そべり、それぞれが奪った肉に食らいついている。

 この後、三匹を連れて赤平川へ散歩に行きたいが、捻挫した足首が痛むため無理だろうし、母さんが到着するまで二十分もない。

 僕は水を与えるため餌を食べる犬たちから離れ、家の中へ檻の鍵を取りに行った。

 井戸でゴローとハナの容器に水を入れ、ロボには納屋に置いてあったボールに水を汲んで檻まで持っていく。三匹はまだ鹿肉を食べている途中であり、ロボは呆けた顔で骨をかじっている。

 檻の前に立ち、しばらく犬たちが餌を食べる様子を眺めてると、庭に車が入ってくる音が聞こえてきた。

 耳慣れたエンジン音に母さんが来たと思い庭に向って歩いていくと、母さんが車から降りて家に入っていくところだ。

「母さん」

 声をかけると、僕を見た母さんの顔が険しくなった。

「秀人! なんで猟なんかについて行ったの!」

 怒られるのは予想どおりだ。でも、猟に行くはずじゃなかったし、熊が出るというアクシデントも発生したのだ。そのことを母さんに話そうと思ったが、目の前に熊が出たなんて言ったら卒倒するに決まってる。

 怒りまくる母さんに謝りまくり、怒りが静まってきたところで出迎えてくれたおじさんと一緒に家に入ると母さんの怒りはおじさんに向かったが、おじさんが冷静に説明しているうちに母さんも落ち着いてきたようだった。

 もともと鹿猟へ行く予定ではなく、前日に新井さん宅付近に熊が出没したため猟について行き、道を間違えてはぐれてしまったのだ。おじさんも新井さんも猟の最中に僕の面倒ばかりみてられないし、狼沢の崖から落ちたのは事故だろう。

 母さんが落ちつき、お茶を一杯飲んだところで帰ることになった。荷物を車に積み込み、助手席に乗る前に再び犬たちのところへ行き、一匹ずつ頭を撫でてやる。

「ロボ、またすぐに来るからな。ゴローとハナも待ってろよ」

 車に戻り助手席に乗り込むと、ドアを閉める前におじさんにロボのことをお願いした。

「おじさん、また来るからロボの世話をしといてね」

「分かってる。ちゃんと世話しといてやるよ」

 おじさんにロボの世話を頼み、挨拶して車のドアを閉めた。車はバックで庭から道路に出ると、ゆっくり走りはじめる。母さんが再び怒りださないよう、余計な話をせずに一時間ほど車に揺られ、地元の病院に直行した。

 受付で手続きして診察室へ行くと、榛沢先生が座っている。

「秀人君、秩父で怪我したんだって? 怪我がひどければ専門の先生に診てもらうからね。ちょっと早いけど、怪我の状態が悪くなければ検査もしちゃおう」

 そう言うと榛沢先生は、僕の怪我した足首を診察しはじめた。

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