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第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品、夢幻の旅が奨励賞を受賞しました。
管理人:Inazuma Ramone

Autographic 第二十五話:記憶

創作長編小説

 博物館の前にある土産物屋の横へ行き、木に繋いであった犬たちを駐車場に連れて行こうとすると、三匹の犬がいない。きっとおじさんが連れていったんだろうと思い、一人で駐車場へ向かった。

 階段を降りながら料金所を見ると、おじさんが料金所の前で犬たちを連れたまま立っている。料金所の中の人と立ち話をしているようだ。

 僕が階段を降りて料金所に近付くと、おじさんたちの会話が聞こえてきた。

「だけど修ちゃん、いい犬だなぁ。皆野の井上さんと荒川の関根さんが、狼沢に凄く良い犬が何匹かいるって言ってたけんども、この犬じゃねえんかなぁ。捕まえて猟犬にしようとしたけど捕まえられねえんだってさ。こんな野犬なら、俺も捕まえて自分の猟犬にしてえよ」

「はぁ駄目だい! 俺の甥っ子が捕まえた犬だかんな!」

 おじさんと料金所の人は、どうやらロボのことを話してるようだった。ロボを良い犬と褒められ、なんだか嬉しくなってくる。

「おじさん」

 後ろから声をかけると、おじさんが振り向いて話しかけてくる。

「おう秀人! もう博物館は見終わったんか」

「うん。ニホンオオカミの毛皮も見たし、学芸員さんから話も聞けたよ」

 おじさんに答えると、料金所の人が話しに入ってきた。

「修ちゃん、この子が甥御さんかい」

「あぁ。和美の長男だ」

「あ~和美ちゃんの子かい。狼沢で捕まえた犬、良い面構えの犬だがね。子犬ができたら俺にも一匹くんない」

 そう言うと料金所の人は再びおじさんと話しはじめたので、手持ち無沙汰になった僕も三匹の犬を順番に撫でながら暇を潰す。

 ゴロー、ハナ、ロボと交代で撫でてやると、どの犬も気持ち良さそうな顔をする。ゴローとハナを撫でてやった後、ロボの頭を撫でているとき肩口の傷を思い出し、そっと触ってみた。

 右脚の付け根から胸にかけて十センチくらいありそうな傷。その傷を触っていると、やっぱり見覚えがある気がしてくる。

(なんだか覚えがある気がするなぁ……)

 なぜ見覚えがある気がするのか考えながらロボを撫でていると、おじさんから声をかけられた。

「秀人、はぁ帰るんべぇ」

 料金所の人に挨拶し、犬たちを車に乗せて出発した。西に傾きはじめた日差しに照らされる後方の三峯神社の駐車場が徐々に小さくなっていく。僕は駐車場から車内のロボに目を移し再び右肩の傷について思いを巡らせるが、やっぱり僕はロボの傷を見た気がする。ということは、僕がロボと会ったのは初めてじゃないはずだ。

 車窓の向こう側の、夕日に照らされている緑の山々を見ているうちに車はダムを渡り、大滝の道の駅を通り過ぎたときに僕は小学校六年生の夏の日を思い出した。和幸と二人、おじさんに連れられて両神山の滝を見に行った帰り道で夕立に遭い、細く曲がりくねった山道で土砂降りの雨に曝されながら座っていた子犬のことを。

 車を停めて外に出てみると、その子犬は右の前脚から血を流しながら震えていた。僕らの前を走っていた赤い県外ナンバーの車と接触したのか、それとも他の動物に襲われたのか分からないが、僕らは子犬を拾って車に乗せ、おじさんの家に連れ帰ったのだ。

 まだ午後四時過ぎだったので小鹿野町の動物病院に行き診察してもらったが、幸いにも骨折はしておらず、打撲と裂傷の治療をしてもらいエリザベスカラーを付けられた。

 背中の毛並みが松の樹皮模様のように鮮やかだった子犬の世話を、夏休みでおじさんの家に泊まっていた僕と和幸で行っていたが、怪我をしているのに成犬になったばかりのゴローとハナと元気に遊び回る子犬に、僕と和幸はいつもヒヤヒヤさせられたものだ。

 だが、不思議なことに子犬は、ゴローとハナがワンワン吠えても決して吠えない。

 吠えるときは連続した「ウォゥウォゥウォゥ!」という、普通の犬とは違う変わった吠え方で、遠吠えもゴローとハナより長い時間続く。行動も変わっていて、遊びの中でもゴローとハナが僕らの言うことを聞くのに対し、子犬は自分で考えて動いてるとしか思えない行動をとっていた。

 父さんと母さんに電話して子犬を家で飼うことになったものの、僕らが帰る日の朝、子犬は首輪から抜け、エリザベスカラーを残して姿を消してしまっていたのだ。

(そうだ……ロボは絶対あのときの子犬だ……)

 あの夏のことが甦り、後ろを振り返って荷室のロボを見ると、まだ背中に残っている灰褐色の冬毛の下から松の樹皮のような模様が日の光で透けて見える。

(やっぱりロボは両神山の子犬だ!)

 僕はロボが両神山で拾った子犬だと確信し、運転しているおじさんに話しかけた。

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