Autographic 第十二話:遭難

創作長編小説

 横も後ろも正面も、周りは樹木が生い茂り薄暗い。よく晴れた五月の午前中だというのに、太陽の光が半分くらいしか届かないようで肌寒さすら感じる。

 僕の前にはおじさんと新井さん、その先にはゴロー、ハナ、ジョン、キースの四匹が歩いている。尾を垂らしたまま歩くゴローとハナに対し、新井さんの甲斐犬は尾を上げて歩く。同じ中型犬でも犬種によって違いがあり、大きさも地犬のほうが甲斐犬より少し大きい。後ろから観察していると、歩くときも甲斐犬が首を上げるのに対して地犬は首を下げ気味にして歩いていた。

 犬たちの歩みは早く、たまに見えなくなったと思うと立ち止まって待っており、僕たちを森の奥へ奥へと案内する。おじさんと新井さんも猟銃を手にして無言のまま歩いているので、猟を知らない僕にもピリピリした緊張感が伝わってきていた。

 枯れ草が厚く積もる、ふかふかで柔らかな道を歩いていたと思うと目の前に現れた大きな岩を登ったり、倒木で塞がれた道を木を乗り越えて進んだりして三十分ほど歩く。

 療養中の僕には歩くのが辛い山道。鬱蒼と生い茂る樹木に遮られてるとはいえ、朝の冷たい空気は初夏の強い日差しに温められて気温を上げていき、久しぶりに体を動かす僕の全身からは汗が噴き出しはじめた。薬を飲んでるとはいえ、貧血を起こしそうになっており吐き気が治まらない。ふらつきながら黙々と歩くが、少しづつ前を歩く二人と距離が開いていく。

 暑くなってきたので立ち止まり、首から下げていた水筒から水を飲もうとしたとき、突然、犬たちが吠えてガサガサ草をかき分け走っていく気配がした。

「あっちだ!」

 おじさんと新井さんが声をあげ、やはり草をかき分けて走っていく音が聞こえてくる。水を一口だけ飲み、慌てて水筒の蓋を閉めて走りはじめた。

 もう道らしい道もなくなり、小走りに駆けるのを止めて物音を頼りに歩いていき、立ち止まっては周りを見て勘だけで方向を決めるものの、なかなか二人に追いつけない。目の前には木が行く手を塞いでおり、木の下をくぐり先へ行く。

 生い茂る木々と背が高い草に遮られて前が見えないが、左側は生えている雑草が低く、一部の草が倒れ道のようになっていた。

 ここを通って行ったんだと直感し、僕も倒れた草を目印にして進んでいく。倒れた草は道のようになっていて、かき分ける必要もなく進むのが楽だ。

 途中、吐き気が酷くなり嘔吐してしまったが、草の中に座り、少し休んで先を急ぐ。

 おじさんと新井さんは犬たちが見つけたかもしれない鹿を仕留めたんだろうか?

 そんなことを考えながら歩いていると、目の前が開けたと同時に体が宙に浮く感覚がした。

「うわあぁ~!」

 脚や腕、背中に痛みが走り、自分が落ちていることに気づくと同時に大きな衝撃を受け、僕の目の前は真っ暗になった。

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