Autographic 第十一話:迷路

創作長編小説

 小さな軽自動車の後部座席に座り、悪路に揺られて行く。僕の後ろではゴローとハナ、新井さんの二匹の甲斐犬が居心地悪そうにおとなしくしている。

 ふと、新井さんの甲斐犬の名前を知らないことに気づき、おじさんと喋っている新井さんに話しかけてみた。

「新井さん、甲斐犬の名前はなんて名前なんですか?」

 舗装されていない道を走る車内がうるさくて僕の声が聞こえないらしく、新井さんは大声でおじさんと話している。もう一度大声で話しかけると、新井さんが振り返って答えてくれた。

「秀人君、よく甲斐犬なんか知ってるがね。こいつらは二匹とも牡で、ジョンとキースって名前なんだいねぇ」

 ――ジョン? キース?

 虎毛犬だから、てっきり「トラ」なんていうベタな名前かと思ったが、なんだか外国の犬みたいな名前である。

「ジョンとキースって、なんだか外国の犬みたいな名前ですね」

 そう言うと、新井さんから意外な答えが返ってきた。

「俺はビートルズとローリング・ストーンズのファンだから、ジョン・レノンとキース・リチャーズからとったんだよ」

「新井は昔っからギターを弾いてたんだ。秩父高校じゃあ俺と新井でバンドを組んで、ベンチャーズやザ・フーを演奏したもんだ」

 横から口を出してきたおじさんが意外な話をしてきた。おじさんがバンドを組んでたなんて、母さんからも聞いたことがない。僕は二人の高校時代に興味が出て、あれこれ質問してみることにした。

「新井さんはギターだったんですか?」

「そうだよ。俺がギターで轟がドラム、ギターとボーカルの奴を入れて、ベースレスのスリーピースでサーフミュージックを演奏してたときが、我ながら一番センスいいバンドだったかなぁ」

 ベースレスのスリーピースでサーフミュージック。ベースがいないなんて、サイコビリーバンドのザ・クランプスみたいでなんだかカッコいい。

 初めて聞くおじさんの高校時代の話で車内が盛り上がっているうちに目的地に到着したらしく、車が少し開けた場所に停まった。車から降り、おじさんと新井さんが猟で使う道具を降ろしてる間に、僕が車の後部ドアを開けて犬たちを降ろすと、四匹の犬たちは嬉しそうにじゃれ合い、元気に走り回っている。

 おじさんと新井さんを見ると、バックパックを背負い猟銃を手にしていた。

「よし、準備オッケー! おい秀人、行くぞ!」

「はーい! ゴロー! ハナ!」

 おじさんに声をかけられたので僕は遊び回るゴローとハナを呼び、二人に続いて、まるで出口がない迷路のような森の奥に向かって歩き始めた。

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