Autographic 第一話:絶望

創作長編小説

 中学三年生になったばかりなのに、僕は急性骨髄性白血病と診断され入院している。このところ目眩がしてたし、毎日のように体もだるい。先月、体育の授業中に貧血を起こして倒れてしまい、保健室の先生に病院へ行くよう言われ、帰宅して母と共に病院へ行った。精密検査の必要があって近隣の大学病院に数日間入院し、検査した結果がこれだ。

 最初はたいした病気だとは思ってなかった。田舎町の小さな病院じゃ検査設備がないから大学病院へ行き、検査のため数日入院して注射を我慢し終了。だが、検査結果は急性骨髄性白血病。強制的に入院させられ、その日から大学病院に閉じ込められる生活が始まった。

 インフォームド・コンセントの最中、母は泣きじゃくり父はうなだれたまま。僕の頭の中は真っ白になり、医師がなにを言ってるのか分からなかった。ただ白血病という病名を聞いただけで、漠然と「このまま死ぬんだ」と思いながら窓の外で風に吹かれる木を見つめていた。

 病院のベッドに寝て点滴や投薬治療を受け、いま思うことは、人間は死ねばただの肉塊だということ。人生に意味があるとは思えないし、なぜ生まれてきて生きなければならないのか納得できる説明を見たこともない。どいつもこいつも自分の事しか考えてないし我が身かわいさに他人を攻撃してる。友達たちが心配して見舞いに来てくれるのは嬉しいけど、あいつらだって心の底じゃ自分が白血病じゃなくてよかったって思ってるにきまってるさ。みんな他人がどうなろうが知ったことじゃないんだ。

 白血病と診断されてから心の中にポッカリと穴が開いたみたいで、両親の話も弟の話も、友達や看護師さんの話も耳に入ってこない。頭の中にあるのは「死」の一文字だけ。現代医学は日進月歩で発展し次々と病気を克服するようになってるけど、まだガンだけは早期発見でしか完治の見込みがない。

 骨髄性白血病は、白血球、赤血球、血小板になるはずの細胞がガンになるらしい。白血病はガンの中では完治しやすい病気みたいだけど、急性骨髄性白血病は病気の進行が早く、異変に気づいた頃にはかなり進行してしまっていて僕の白血病が完治する確率は三十パーセントくらい。逆に言えば、病気を克服できずに死んでしまう確率が七十パーセントあるってことだ。

 明日は放射線治療の日。いっそ放射線技師が放射線量を間違えて大量の放射線を浴びせ、即死させてくれればいいのかもしれない。中身が無くなり空っぽになった今の僕は、この世に存在してても仕方がない人間だ。もう高校進学も友達と遊ぶのもどうでもいい。本当に何もかもが無意味になった。

 死の淵を歩みながら時折り脳裏を過ぎるのは、死ねば誰が香華をあ上げてくれるのだろうか、次に思い浮かぶのは、やっぱり死にたくない、ということ。時に厳しく時に優しい両親、兄弟喧嘩ばかりしていた弟の和幸、楽しかった学校生活。様々な思い出が浮かんでは消えていくが、最後に「死」という現実を思い浮かべると、廃墟になった体を埋めていく楽しい思い出は現実の重圧に抗えず、再び僕を朽ち果てた人間に変えてしまう。

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