Heaven Sent:第二十二話

創作長編小説

 途中でコンビニに立ち寄り弁当でも買おうと思ったが、どうにも食欲が湧いてこない。まあいい、腹が減ったらファミレスにでも行けば済むことだ。そのままアパートの駐車場まで行き、出入口横の自動販売機で缶コーヒーを二本買い、部屋戻った。

 お袋に泣かれ、とうとう子供のことは言えなかったし、明日は会社の上司に自分の身に起こった状況を伝えなければならない。今の俺の精神状態では仕事を続けることすら無理そうだ。でも、働かなければ生きていけないし、実家に戻って親父に食わせてもらう訳にもいかない。

 部屋に残されているオーディオの電源を入れ、プレーヤーにCHINA DRUMのCDをセットして再生すると、スピーカーJBL4312からノイジーな音が飛び出した。勢いよくスピーカーユニットを揺さぶる早いビートに身も心も委ね、明日、上司になんて言おうか、それとも会社を辞めてしばらくブラブラしようか考えるも、なんとも考えがまとまらない。タバコに火を点けて煙を燻らせながら、明日のことは明日考えればいいと思い悩むのを止めた。

 友達を誘って飲みに行く気にもならないので、水道水で割っただけの残りものの焼酎をチビチビ飲みながら荷物の片づけを再開し、僅かしかない自分の私物をダンボール箱に詰めるのを再開した。オーディオラックはバラせば車に乗せられるし、スピーカーやアンプ、ギターも自分で持っていける。理恵子から取り戻した預金通帳や印鑑を失くさないように梱包を別にして、あとは明日着ていく服だけ出しておけばいい。明日は仕事納め、明後日から休みだ。正月前に実家に戻ろう。

 玄関へ行き、明日履く革靴を一足だけ残して他の靴やブーツは全て箱詰めし、ハンガーにワイシャツとスーツをかけると、玄関に戻って革靴の手入れを始めた。布で靴の汚れを拭い、ミンクオイルを布に付けて革を磨く。持ってきた焼酎を飲みながら無心で靴の手入れをしていると、なぜか落ち着いてくる。靴の手入れが終わると飲み干したグラスを持って台所へ行き、焼酎を追加するついでに灰皿とタバコも持ってきて、酒を飲みながらタバコを一本吸った。

 体を動かしながら酒を飲んでいたためか、やることが無くなった途端に眠くなってくる。タバコの火を消し、部屋に敷いたままの布団に横になり、少し眠ることにした。明日、出勤したら朝イチで課長に事情を説明しよう。徐々に意識が薄れていくのを感じながら、冬に暖房器具がないのは辛いのを実感したのが睡魔への最後の抵抗となった。

 目が覚めると朝六時。風呂にも入らず、俺は十時間以上寝てしまった。慌ててシャワーを浴びて着替え、会社に向かう。出社して課長が出勤してくるのを待ち、話しがあることを伝え会議室に入った。

「課長、じつは昨日離婚しまして……退職するか考えてます」

「そうか……離婚しそうだって言ってたが、やっぱり離婚したのか……。で、退職後の新しい仕事は見つけてあるのか?」

「いや、しばらくブラブラしようかなって思ってます」

「ご両親に悲しい思いをさせたばかりで、また心配かけるようなことをするな。本部で働くのがキツいなら店舗に行けよ。体を動かして働いてれば嫌なことを考えなくて済むだろう」

 たしかに仕事もせずブラついてるんじゃ、親父とお袋も心配するだろうな……。課長の言葉に納得した俺は、年明け早々の人事異動を願い出た。

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