Heaven Sent:第十五話

創作長編小説

 ――結局あの後、目が覚めたら朝になっていたので、あの出来事が現実だったのか夢だったのかは未だ分からない。でも、言われることは違っていても、今もあの光と声の夢を見続けているので夢だったのかとも思う。そのことも含め、過去を振り返りながら現在の自分自身を考えると、あれから十一年経つのに成長してない自分が情けなくなってくる。追い打ちをかけるように妻の理恵子が愛想を尽かして出て行き、今や妻のことが頭から離れなくなったダメ人間なのだ。

 御神木の側に立ち、樹上を見上げながら歩んできた人生について考えを巡らせていると、いろんな想いが交錯してくる。過去の自分も現在の自分も完全に負け犬、いや、三歳のとき、親父が交通事故に遭って内臓破裂の大怪我を負い、親戚の家をたらい回しにされて育った時点で負け犬決定だろう。幼い頃の記憶にあるのは、妹を背負って大きな荷物を両手に持った母が、父の看護のため家を出て行ったときの後ろ姿と、祖母と一緒にブランコに乗って遊んだこと。他には、義理の叔母に疎まれ文句を言われながら過ごした惨めな日々と、父と母に逢いたくて毎日泣いていた孤独な記憶しかない。

 五歳のとき親父は退院したが、祖母の家から幼稚園に通ってた俺は両親が帰ってくるのが嬉しくて、当日は幼稚園から上履きのまま走って帰っちゃったんだっけな。俺は覚えてないんだが、太ってた親父がガリガリに痩せてるのを見て「ボクのお父さんはもっと大きかった」と言って親父を泣かせたと、お袋から聞いた。お袋も親父の交通事故の話が出ると「達也が不憫だ」と今でも泣くからその話しはしないようにしているが、普通の体でなくなった親父が満足に働ける訳もなく、当然のように我が家は貧乏で、周囲の友達がクリスマスプレゼントを買ってもらったり、家族旅行に行ったりするのを羨ましがる、いつも心の中に雨が降っているような少年だったように思う。

 地面に目を落とし、自分の人生を人と比べるなんて馬鹿げてると思いながら御神木を後にし、神社の鳥居をくぐり実家へ向かって歩きだした。体を襲う真冬の風の冷たさに心まで冷たくなってしまう気がして、革ジャンのジッパーを閉めて歩みを速める。欲しかったものは平凡な生活と心の平穏なのに、気がつくと俺の心の中にはいつも雨が降ってるじゃないか。

 生まれついての負け犬に相応しい、無様な人生を歩んでいるだけかもしれないと思うと同時に、なぜ俺の進む道は行き止まりばかりなんだろう、どうすれば人並みの幸せや自分の居場所を手にできるんだろうと思いを巡らせ始めた。

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