Heaven Sent:第三話

長編小説

 俺に気を使ってか、あまり喋らない親父とお袋と一緒にいるのが辛いので、借りた布団を車に積み、お昼には帰って来ると伝え実家近くの川へ散歩に出かけた。橋の袂から土手に入り、何度も夢で見た場所へ行くと、子供の頃は田圃と畑ばかりで民家は数えるほどしか無かった風景が一変していた。田圃や畑は宅地造成され、ガタガタと大きな音を立てながら重機が作業をしており、川も護岸工事を終えて見違えるように綺麗になっている。

 子供の頃遊んだ川も、田圃も畑も、土地の境界に植えてあった何本もの大きな境木もそこには無く、自分の中の輝く思い出も土地と共に更地にされてしまったような、軽いショックを受ける光景であった。

 今の精神状態でこの風景を見続けると鬱になりそうなので近くの公園に向かったが、頭の中は離婚の事で一杯である。途中、家と反対方角にプロテスタント教会があるのを思い出した。もしかしたら牧師さんが俺の病んだ胸の内を聞いてくれるかもしれない。

 教会へ行って呼び鈴を鳴らし、中から出てきた女性に「牧師さんに悩みを聞いてほしい」と伝えると、信者でない人の相談は受けないという。

「毎週日曜日に信者が集まって礼拝するので、参加してみては如何ですか?」

 クリスチャンになりたいのではなく、胸の内を聞いてくれる人が欲しかっただけだと言って女性の勧めを断り、俺は再び歩き出した。東に向かい、実家の手前で南に折れて小学校前の道を東へ。離婚の事、出て行った妻の事を考えながら、いつの間にか神社の前に来ていた。中学三年生の夏、友達と心霊写真を撮りに来たあの神社へ。

 何故か足を止められず、鳥居の前で一礼して境内に入り周りを見る。ここは何も変わってない。拝殿も境内の御神木もあの頃のままだ。今の俺には狂ってるとしか思えないくらいに眩しい太陽の光を遮る、鬱蒼と生い茂る木々の中を御神木の横を通って拝殿前の階段を昇り、賽銭箱に五円を投げ入れ二礼二拍手一礼、しばらく頭を下げたまま自問自答するように胸の内にある陰鬱な気持ちを心の中で叫んだ。

(俺が欲しかったのは心の平穏と平凡な人生だったんだ……)

 雲の形がそれぞれ違うように、人間も人それぞれだ。ハリウッドスターやスポーツ選手のように、世界から注目を浴びる人は銀の刺繍が施された雲のようなもので、多くの人は、生まれては空を漂い消えていく雲のようなものだろう。もちろん俺だって、銀の縫込みがある雲じゃない。

 俺は参拝を済ませると神社の御神木の前に立ち、あの夏の日の出来事を思い返し始めた。

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