Heaven Sent:第二話

長編小説

 ――実家の南を、西から東に流れる小さな川の北側の土手の上、真っ暗闇の中に俺は立っていた。まるで、映画のスクリーンかテレビ画面を見るように、俺が見るところだけ映像が写り他は真っ暗闇。下を見ると、普段は大人の膝丈くらいの水量しかない川なのに、轟々と音を立てながら黒い水が流れており、大きな岩が三つ水面から出ている。川の南側は田圃のはずなのに、見渡す限り綺麗な花畑が広がっていた。

 南側の土手の上では、じゃれつく白い子犬と楽しく遊ぶ、もう一人の俺がいる。まるでテレビを見ているような感覚で自分を見る俺。でも、子犬と遊ぶ自分を見ている俺は、見ている自分の思考や感情と、子犬と遊ぶ俺の感覚や感情を同時に感じ取っていた。二人の自分の感覚や思考、そして感情を同時に感じる不思議な感覚。見ている俺が立っているのは暗闇の中なのに、子犬と遊ぶ俺は晴れた空の下にいる。

 雲が幾つか浮かび雲雀がさえずる、暑くもなく寒くもない春の日差しの中、よく懐いた子犬と遊ぶのは楽しい。花畑に棒を投げて取ってこさせたり、一緒に花畑の中を走ったりして遊んで、どれくらいの時間が過ぎたのか分からないが、俺が土手の内側、川のすぐ側に棒を投げて子犬に取ってこさせようとしたら、子犬は棒を咥えたまま一匹で遊び始め、俺の所に戻って来ない。何度も呼んだり口笛を吹いたりして、やっと子犬は一匹で遊ぶのを止めて戻って来た。

 俺が両手で子犬を抱き、再び子犬を地面に下して遊ぶのを再開し始めたその時。

 空から日差しよりも強い太陽の光が差し込み、俺と子犬は同時に空を見上げた。北側の土手から見ている俺には、画面が強い光でいっぱいになり、俺と子犬が光に飲み込まれていく様に見える。

 やがて画面が強い光でいっぱいになると、子犬と共に空を見上げていた俺の頭上から男の声が降り注いできた。

『その子犬はお前の子犬じゃないから捨てて来なさい』

 天から降り注いできた声は、あっという間に見ている俺の画面いっぱいに広がり、子犬と空を見上げる俺の世界いっぱいに広がった。目の前の人と喋っているくらいの大きさの声だけど、地面に押し潰されそうな圧倒的な音圧。

 思わず身を屈めた時、天井が目に入った。

 ――また、あの夢だ。

 ゴミ袋の中で目を覚まし、思わず呟いた。中学三年生の夏、友達四人とホームレスが自殺した神社へ心霊写真を撮りに行った夜に見た、あの光と声の夢。

 時計を見ると午前十時。体が怠く起きるのが億劫だったが、ゴミ袋から出てシャワーを浴び、車で実家まで布団を取りに行く事にした。だが、まだ両親には離婚しそうだと話してあっても妻が出て行く事まで話しておらず、話しをどう切り出すか悩みどころだった。シャワーを浴びて着替えを済ませ、車で移動している最中も考えていたが、良い切り出し方が浮かばない。

 そうこうしているうちに実家に到着してしまったので、ストレートに話しをして布団を借りる事にした。

「昨日、理恵子が荷物をまとめて出て行ったよ」

 お袋に事情を話し、妻が昨日家を出て行った事を伝えた。

「嫌いになった男の匂いが付いた布団まで持って行くのか」

 お袋に泣かれ、親父も下を向いたまま何も言わなかった。

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