第七話 荒野のギター 其の1

2017年11月8日Feel The Darkness

「オォッ! 右手を見たまえヘンタイロス君! 街が見えるぞっ!」

 三日三晩船に揺られた後、街らしき影が見えて来たので、ベラマッチャは狂喜して叫んだ。

 だが、ヘンタイロスは船酔いでダウンしており、返答できない。

 ヘンタイロスの後ろから、船を漕いでいたポコリーノの声がした。

「ブックジョウの街だ。ヘッヘッヘ……やっと海からオサラバできるぜ」

 船から降りられる嬉しさに、ポコリーノは全力で漕ぎ始めた。

 少し前にベラマッチャから交代したポコリーノは、元気一杯に船を漕いで行く。

 船の上でゲルゲリーから貰った携帯食を食べ、眠り、船を漕いで来た一行には街の影が眩しく見える。

 船は徐々に街に近づき、手前の入江に船着場が見えて来た。ポコリーノは更に力を込めて漕ぎ、舟を入江の桟橋に向けた。

 船を桟橋に近づけると髭面の男が現われ、ベラマッチャたちに向かって手招きをしているのが見えた。船が桟橋の横に行くと髭面の男がロープを投げて来たので、ベラマッチャはロープを船の舳先に結び付けた。

「ブックジョウへようこそ!」

 髭面の男は陽気に言い、手を差し伸べた。ベラマッチャは男の手を掴んで桟橋に移り、シャザーン卿、ヘンタイロス、ポコリーノも後に続き桟橋に移った。

 ベラマッチャは周りを見回しながら髭面の男に話し掛けた。

「この街には初めて来たが、随分と活気のある街だな」

「ブックジョウは交易の街だ。活気があって当然さ! 停泊料は金貨三枚だよ」

 ベラマッチャは、マワシの間に挟んだ皮袋からコインを三枚取り出して渡し、桟橋から街に向かって歩き始めた。

 髭面の男は笑みを浮かべてコインをポケットにネジ込み、ベラマッチャたちの背中に声を掛けた。

「兄さんたちの商売の成功を祈るよ!」

 四人は桟橋を後にし、街に向かって歩いて行った。

 港の門を潜り街へ出ると大勢の人たちが通りを往来しており、路上で商売をしている者が沢山いる。

 値段交渉や罵り合いの声が彼方此方から聞こえ、街全体が高揚感に包まれているかの様な錯覚すら覚える。

「流石は交易の街・ブックジョウねん。街中が賑やかだわん」

 ヘンタイロスは物珍しげに周りを見ながら先頭に立って通りを進んで行く。

「諸君、今日はこの街に宿を取り、明日の朝ディープバレーに向かおうではないか」

 ベラマッチャの提案に、シャザーン卿が賛意を示した。

「それが良かろう。今日は街を見物して疲れを癒すとするかのう」

「俺たち三人は船を漕ぎ続けて疲れている。疲れてないのはシャザーン卿だけだぜ」

 ポコリーノは皮肉っぽく言い、シャザーン卿をチラリと見た。ベラマッチャとヘンタイロスはポコリーノをなだめながら、宿を探すため街の中心に向かって歩いて行った。

 交易の街らしく、ブックジョウには宿屋が沢山あるが、どこも代金が高く、泊まれそうな宿がなかなか見つからない。酒場や宿屋を見つけては値段交渉するものの、どの宿も値引きには応じない。

 終いには宿の主人から街外れの木賃宿の事を聞き、一行は港の反対側に向かって歩いて行った。

 賑やかな街を見ながら街外れまで歩くと、通りの向こうで大勢の人が集まって騒いでいるのが目に止まった。

 四人は顔を見合わせて人だかりに向かって行くと、人々は通りの両側に集まり、通りの真ん中を、ド派手な服を着た五人の男たちが踊りながら歩いて来る。

「なんだ過激マンか」

 派手な男たちを見たポコリーノは吐き捨てる様に呟いた。

「過激マン?」

 初めて目にする人種に、ベラマッチャは興味深そうに聞き返した。

 一糸乱れず踊りながら、通りを練り歩く連中の派手さは異様である。夥しい数の鋲を付けた革の衣服で全身を包み、赤や緑に染めた頭髪を鶏の鶏冠の様に逆立て、満面の笑みで忙しない踊りを踊りながら、怒鳴り散らしているかの様に歌っている。

「ああ。ド派手な衣装を着て派手なパフォーマンスをするチンピラ共だ。過激者とか過激マンって言われてる。いるぜぇ、この街にも。俺みてえに他人をブチのめして生きてる奴がよぅ」

 ポコリーノは不敵な笑みを浮かべ、過激マンの真ん中で踊っている、一際目立つサンドガサ・ハットを被った長身の男を見つめた。

 踊りながら通りを練り歩き続ける過激マンを見物していると、ベラマッチャの耳に傍にいた老人たちの会話が聞こえて来た。

「馬鹿共が。格好つけて来おった」

「嫌じゃのう~、本当に嫌じゃのう」

 ベラマッチャが老人に話しかけようとした時、周りがどよめいた。

 一人の過激マンが突如、ベラマッチャの傍にいた老人の首にナイフを突き付け、背の高い過激マンを指差した。

 過激マンの一人が長身の過激マンを指差しながら、顔を近づけて来たのだ。

 ナイフを突き付けた過激マンは、怯えた表情をして震えている老人に向かい、一言毎に首を上下左右に動かしながら呟いた。

「奴の……名前は……カルロス……パンチョス……」

  ナイフを突き付けられた老人は、自分に降りかかった悲惨な運命を呪うかのような、小さな震える声を搾り出した。

「カッ、カルロスッ! パンチョスッ!」

 ナイフを突き付けた過激マンは、老人の首筋から流れる血を舐め取ると、泣きながら震えているのを見て満足そうにニタリと笑い、首からナイフを離してズボンのポケットに入れた。

 過激マンは胸のポケットから袋を取り出し、中に入っている白い粉を鼻から吸い込んでブルルッ、と身体を震わせた。

 それを見ていた他の過激マンたちも、ポケットから袋を取り出して鼻から粉を吸い込んだ。

 先頭を歩く過激マンが粉を吸って身体を震わせ、通りを埋め尽くす見物人を見回して大声で叫び始めた。

「過激団ヘッドのお帰りだぁっ! ビッグな過激マンが帰って来たぜぇっ!」

 男の叫びを聞いた過激マンたちは再び踊りながら歩き始め、ベラマッチャたちの前を横切って通りを進んで行った。

 白い粉を吸いながら歩く過激マンを見たポコリーノは、嫌悪感丸出しで呟いた。

「チッ、ポンの実を吸ってやがる。イカれてやがるぜ」

「あれはポンの実の粉かね? そんな事をしたら死んでしまうではないか」

 ポコリーノの言葉を聞いたベラマッチャは驚きの表情で聞き返した。子供の頃、長老からポンの実を食べると死んでしまうと、口煩く言われて来たからだ。

「ポンの実を粉にして吸うと、とんでもなく大きな快感を得られるそうだ。そして吸い続けるうちにポンの実が離せなくなり、ポン中になっちまうのさ」

「まあっ! 大きな快感ですってん! どれくらい気持ちイイのかしらん?」

 ポコリーノの話にヘンタイロスが口を挟んだ。どうやら『快感』という言葉に興味を持ったらしい。

 ヘンタイロスの質問にポコリーノは頭を振った。

「やめとけよ。ポン中になっちまったら幻覚と幻聴に悩まされて、ポンの実を求めて何でもするようになっちまう。そうなったら危なくて誰も近づきやしねえ。ヨダレを垂れ流して死んじまうんだ」

 ポコリーノの話を聞いたヘンタイロスは顔を引き攣らせた。

「まあ怖いん! ワタシ、そんな事になったら嫌だわん。そんなに危ない実を平気で吸うなんて、過激マンって刹那的なのねん」

「刹那的? ケッ! 連中は格好いいと思ってやってるだけさ」

「ええい、そんな事はどうでもいいわい。さあ、宿に行くぞ」

 ベラマッチャたちの遣り取りを聞いていたシャザーン卿が、横から口を出して来た。

 シャザーン卿に促された一行は、過激マンたちを一瞥して木賃宿に向かった。

「いらっしゃい。三名様かね? 馬は外に繋いでくれよ」

 宿の扉を開けると、木賃宿の主人が話し掛けてきた。ベラマッチャたちが何も言わないうちから、頻りに一人部屋を勧めてくる。

「一人部屋にするかね? 四人部屋もあるが、一人部屋が得だよ」

「ご主人、ヘンタイロス君は馬ではない。四人部屋にしたいのだが幾らかね?」

「金貨十枚だよ」

 宿の主人は舌打ちし、不貞腐れた態度で答えた。

 ベラマッチャはマワシから皮袋を取り出すと、金貨十枚を主人に手渡した。

「部屋に案内しますよ」

 主人は受け取った金をポケットに入れながら、鍵の束を取り出して階段に向かって歩き始めた。

 ベラマッチャたちが後に付いて階段を登って行くと、主人は二階に上がって最初の部屋の扉を開けた。主人はベラマッチャたちに夕食の時間を伝え、不貞腐れた顔のまま階段を降りて行った。

 部屋はかなり狭く、四人で寝るには少々キツそうだ。一行は荷を解き、床に座り込んで先程目撃した過激マンの話を始めた。

「ポコリーノ君、ポロスにも過激マンが居たのかね? 僕は見なかったが」

「フッ……ポロスの過激マンなんか、俺が全員ブチのめしちまったよ」

「むぅ……それでポロスでは過激マンを見掛けなかったのだな。それにしても、彼等の格好は奇妙だったな。頭なんか鶏冠の様だった。このイドラ島の治安の乱れが、彼等の様なポン中を生んでいるのだろうな」

 ベラマッチャとポコリーノが過激マンの話をしていると、シャザーン卿とヘンタイロスが口を挟んできた。

「あんな連中は唯のチンピラじゃ。気にする事もあるまい。余はメシまで寝るぞ」

「そうよん。それより、早くブックジョウの街を見物しに行きましょうよん」

 ヘンタイロスに急かされ、ベラマッチャとポコリーノは街見物に出る事にした。三人はシャザーン卿に夕食までには帰ると言い残し、部屋を出て行った。

 残ったシャザーン卿はゴロリと横になり、先程見た過激マンたちとの争いを予感しながら眠りについた。

 (フッフッフ……ジャニータ……会いてぇ……)

 カルロス・パンチョスは愛する恋人の事を想いながら踊っていた。

 パンチョスはカッパ・マントを風に靡かせ、長い顎を引いて猫背で踊る。頭にサンドガサ・ハットを被っているが、長大なリーゼントがはみ出し、カッパ・マントと一緒に風に靡く。

 風に靡くカッパ・マントの下からは時折、ギターのネックがチラチラ見え隠れしている。

 やがて、パンチョスたち過激マンは、大通りを踊りながら練り歩き、一軒の店に到着した。

 店の前でカルロス・パンチョスを取り巻いていた四人の過激マンたちが入り口の前に一列に並び、長身の男に向かって頭を下げ挨拶をした。

「チスッ!」

「チィィッスッ!」

「ご苦労さんでしたっ!」

「お疲れさんでしたっ!」

 パンチョスは自分に向かい頭を下げている四人の過激マンたちの前を通り、踊りながら店に入った。四人の過激マンたちも後に続き、店に入って行った。

 パンチョスは店の奥にあるテーブル席に行き、サンドガサ・ハットと肩に掛けたギターをテーブルに置いてから座り、後に続いて来た過激マンたちに声を掛けた。

「ジャニータは元気か?」

 パンチョスは真っ先に愛する女の身を安じた。旅に出ている間も、一時も忘れた事は無い。パンチョスはジャニータと所帯を持つため、賞金稼ぎなどという危険な仕事で稼いでいるのだった。

「元気でやってる。毎日、お前が無事に帰れるように祈ってたそうだ」

 過激マンの言葉を聞き、やっとパンチョスの顔から険しさが取れた。一刻も早くジャニータに逢いに行きたいが、先に仕事の報告を済ませねばならない。

 逸る気持ちを抑えるように、パンチョスは過激マンに他の事を尋ねた。

「俺の留守中、変わった事はなかったか?」

 パンチョスの言葉に過激マンの一人が答えた。

「お前の留守中、ブックジョウは俺たちが守ってたぜ。安心してくれ」

 過激マンの言葉にパンチョスはニヤリとして呟いた。

「フッフッフ……流石はこのカルロス・パンチョスに従う過激団のメンバーだ」

「あぁ……俺たちは歌って踊れる過激団だぜ」

 話をしていると、店の奥から恰幅の良い禿頭の男が、皿を持って現われたのにパンチョスは気付き、立ち上がった。

「おやっさん……」

「まあ座れ。パンチョス、腹がへったろう?」

 禿頭の男はパンチョスの前に、パスタを盛った皿を置いた。パンチョスはフォークを掴み、匂いを嗅いでから美味そうに食べ始めた。

 禿頭の男はテーブルの上に肘を付き、組んだ手に顎を乗せてパンチョスがパスタを食べるのを見ながら、残った過激マンたちに声を掛けた。

「パンチョスと二人で話したい。お前等、外に行ってろ」

 禿頭の男の言葉に、過激マンたちは一瞬顔を強張らせた。

 禿頭の男がパンチョスと二人きりで話をした後、決まってパンチョスは旅に出てしまうのだ。

 過激マンたちは禿頭の男の正体を知らない。ただ何となく、裏稼業をしているのだろうとは思っていた。思ってはいても口には出せない。おそらくパンチョスは、男の手足となりヤバイ仕事をしているのだろう。

 過激団ヘッドのパンチョスが「おやっさん」と呼ぶ男の詮索をしてはならない事が、過激マンたちの暗黙の了解であった。詮索を始めたら、きっと翌朝には死体となって港に浮かぶ事になるだろう。

 過激マンたちは皆、無言で店を出て行った。禿頭の男は過激マンたちが出て行ったのを見ると、身を乗り出して話始めた。

「ご苦労だったな、パンチョス。半島から来た連中には苦労しただろう?」

「ああ。名前も人相もコロコロ変わってたからな。全てを嘘で塗り固めてあったから、探すのに苦労したぜ。もっとも、極悪非道の限りを尽くしたくせに、殺る時は泣いて命乞いしてたがな。全く情けない連中だったぜ」

「パンチョス、帰って来て早々すまんが、デカい仕事の依頼だ。さる貴族様から、表には出せない殺しの依頼が来たんだ」

「貴族?」

 パンチョスは首を捻った。貴族が賞金稼ぎに仕事を依頼するなど聞いた事がない。

「なんで貴族から賞金稼ぎに仕事の依頼が来るんだ? 表に出せない事件も、手勢を使って闇に葬るのは連中の得意とするところだろ?」

「この戦争で人手が足りず、先方も困っているらしい。かなり大きな仕事で、暗殺者ギルドにも賞金稼ぎギルドにも断られたのと事だ。それでワシの処まで話が廻って来たんだ。パンチョス、これは大チャンスだぞ」

 パンチョスの思考は更に混乱した。

「チャンスって?」

「この仕事をやり遂げたら、賞金稼ぎギルドに圧力をかけて、ワシが一家を構える事を了承させると約束してくれた。そうなればワシ等は潜りの賞金稼ぎじゃない。堂々と看板を掲げて稼業ができるんだ。一家を構えてギルドから仕事が廻って来るようになれば、お前の腕なら大金が稼げる。ジャニータと暮らす家も、すぐに買えるぞ」

 パンチョスは驚いた。貴族が一家を構える事を後ろ盾するとは、夢にも思わなかったのだ。同時に、この仕事を請ければ、孤児だった自分を育ててくれた、目の前にいる男への最高の恩返しになると思った。

 行き場をなくしグレていた少年・パンチョスを引き取り、賞金稼ぎの仕事を仕込んでくれたのは目の前にいる男なのだ。その恩は海よりも深いとパンチョスは思っていた。

「フッフッフ……そういう事だったのか……その仕事、請けるぜ」

「おぉ……やってくれるか、パンチョス」

 大金を稼ぎ、ジャニータと暮らす夢を実現できそうな話に、パンチョスは乗る事にした。

「あぁ……成り上がろうぜぇ、おやっさん。で、どんな奴を殺ればいいんだ?」

「今度の相手は相当ヤバイ。サンダーランド強制収容所からの脱獄囚だ」

「なにぃ~、サンダーランド強制収容所? あそこから脱獄した話なんか聞いた事が無えぜ? 一体、どんな奴なんだ?」

 パンチョスは驚き、目を剥いて禿頭の男を見た。

「むぅ……先方は自身の名前に傷が付くのを怖れているらしく、この件に関しては絶対に口外しない事を求めて来た。そんな訳で詳しい事を教えてくれんのだ。なんでもサンダーランド強制収容所で暴動があり、その隙に地下牢獄から一人脱獄したそうだ。その男と手引きした三人の仲間を闇に葬ってくれとの依頼だ」

「そいつ等の特徴は?」

「丁髷の盗賊との事だ。手引きした三人の仲間にはスモウレスラーがいるらしい。恐ろしく凶悪な連中だそうだ」

 男の話を聞き、パンチョスは考え込んだ。あのサンダーランド強制収容所の、しかも地下牢獄から脱獄した凶悪犯となると、今まで殺ってきた賞金首共とは訳が違うだろう。何と云っても、殺人のプロたる暗殺者ギルドと賞金稼ぎギルドが断った仕事なのだ。今までも楽な仕事は無かったが、今度は本当に命を落とすかもしれない。

 顎を撫で回しながら考え込んでいると、脳裏に愛しいジャニータの顔が浮かんだ。

 パンチョスは目の前に居る男に、思っている事を口にした。

「おやっさん……」

「何だ?」

「俺が稼いだ金の事だけど……俺の身にもしもの事があったら、全部ジャニータにあげて欲しいんだ……」

 禿頭の男はパンチョスの目をジッと見つめ、頭を振り答えた。

「判ってる。何も言うなパンチョス。お前のジャニータを思う心根、この街の者は皆知っているぞ。それに……」

 禿頭の男はパンチョスが話そうとするのを遮り、話を続けた。

「床下に隠しておくより、ワシに預けておいたほうが安全だろう? さあ、ジャニータに会って来い。明日には旅に出なければならん。ジャニータもお前が来るのを待っているだろう」

「ああ……そうだな、おやっさん」

 男の言葉にパンチョスは立ち上がり、サンドガサ・ハットとギターを持ち店を出て行った。残った男はパンチョスの背中を見つめ、ニヤリとしながら禿頭を撫でた。

「本当に賑やかな街ねん。見てるだけでウキウキしてくるわん」

 ヘンタイロスは浮かれ気分になり、スキップしながら街を見物していた。

 ある店の前でドレスを発見したヘンタイロスは、その場から動こうとせず、ベラマッチャとポコリーノを少々辟易させた。三人で相談した結果、各々自由に街を見物しようという事になった。

「おい、ヘンタイロス! 晩飯まで自由に見物してろ! 俺たちも晩飯には宿に帰るからよう!」

 ヘンタイロスは浮かれた顔で振り返り、ポコリーノに返答した。

「分かったわ~ん! じゃあ宿で会いましょう!」

 ヘンタイロスは去って行く二人に笑顔で手を振り、手に取ったドレスを身体に当てて鏡を覗き込んだ。

 ベラマッチャとポコリーノは十字路まで来るとで立ち止まり、お互い別の方向へ行く事にした。

「それじゃあポコリーノ君、僕は港の方へ行く事にするよ。君はどの辺りを見物するのかね?」

「俺は街中へ行くぜ。じゃあ木賃宿で会おう」

「むう、ディナーには間に合うように帰って来てくれたまえ。ヘンタイロス君ではないが本当に賑やかな街で、ウキウキしてくるな」

「ああ、お前も楽しんで来いよ」

 ポコリーノはベラマッチャとも別れ、十字路を左へ歩いて行った。ブックジョウの街は人が溢れており、大通りには沢山の店や屋台があり賑わっている。

 ブラブラと歩きながら暫らくのあいだ街を見物していると、噴水のある広場に出た。噴水に近づくと、霧雨の様になった水が身体に降りかかり心地いい。

 歩くのを止め、少し休もうと噴水の端に腰を下ろし、広場を行き交う人波をボンヤリ眺めていると、俄かに背後が騒々しくなってきた。男たちが噴水の向こうで、大声で歌を歌い始めたようだ。

(さっきの過激マンだな……)

 背後から聞こえて来る歌を耳にしたポコリーノは、咄嗟に先程目撃した過激マンの集団を思い浮かべた。

 ポコリーノは五月蠅くなった広場を出て静かな場所を探そうと、腰を上げ噴水から離れた。

 もと来た道に向かって歩き始めた時、背後から男たちの声が聞こえて来た。

「おい見ろよ! 木の人形が歩いてるぜ!」

「スゲェ! あの人形は俺が貰った!」

「俺が貰うぜ! きっと魔術が掛ってるんだ!」

 怒鳴り声と共に、ドカドカと迫る足音を聞いたポコリーノは舌打ちして振り向いた。ポコリーノの睨んだとおり、近づいて来たのは先程目撃した過激マンたちであった。

 三人の過激マンはポコリーノを取り囲み、からかい始めた。

「ヘッヘッヘ……お人形ちゃんよう、どこから来たのかなぁ?」

「アンヨが上手でちゅねぇ~。ケッケッケ……」

「……」

 ポコリーノは頬をピクピクさせ、額に道管を浮き出させて怒りを露にし、三人目の過激マンが言葉を発する寸前、殺人パンチを炸裂させた!

「げぇっ!」

 喋ろうとした過激マンは、顔面に殺人パンチを喰らって後方に吹っ飛び、血が吹き出る顔面を両手で覆い、悲鳴をあげながら地面を転げ回っている。

「こっ、この野郎っ!」

 仲間を殴られた残りの過激マンは怒りを爆発させ、ポコリーノ目掛けて一斉に殴り掛かって来た。

 だがポコリーノは過激マンたちの拳を簡単に躱し、猫が鼠をいたぶる様に二人の過激マンを滅多打ちにし始めた。

「ぎゃぁぁっ!」

「痛てえぇっ! 痛てえよぉっ!」

「クッ、糞がぁっ! パンチョスがっ! パンチョスが来りゃあ、てめえなんざ一撃でっ……」

 過激マンたちは滅多打ちにされながら、パンチョスが来ればポコリーノを一撃で倒すと大見得を切った。

「パンチョスゥ?」

 ポコリーノは殴るのを止め、血の海の中でのたうち回る過激マンたちに向かって吐き捨てた。

「――連れて来い。この俺に喧嘩を売る野郎はブッ殺してやる」

 何時の間にか大勢の見物人に囲まれているのに気付き、ポコリーノは最初に殴った過激マンに蹴りを入れて足早に広場から立ち去った。


2017年11月8日Feel The Darkness