第一話 Feel The Darkness 其の1

2017年11月8日Feel The Darkness

「イボイノシシとは大収穫だな」

 アンソニー・ベラマッチャはイボイノシシの前足に縄を括り付け、アフロヘアとペニスケースを揺らしながら上機嫌で獲物を引き摺り、草原の中の一本道を歩いていた。

 歩きながら、今日の狩りのことを楽しそうに思い出していた。獲物を追い立てるタイミング、槍の打ち込みかたなど、どれを取っても完璧だったのだ。

(これも全てキワイ大火山神の御加護のおかげだな……)

 ベラマッチャは遥か西に聳え立つキワイ山に感謝した。道の両脇にある草が小麦色に変わり始め、夏が終わりに近づいていることを教えてくれている。

(冬に備えて薪を溜めはじめなきゃな……)

 ベラマッチャはこれから来る厳しい冬に向かっての事を、あれこれと考え始めた。

 その昔、キワイ山の魔神を封印した一族の英雄『グッチ・ハマー』が、イドラ島を治めるピーターズバーグ王国国王から『紳士』の称号を得て以来、ベラマッチャ達ジャヴァー族は『魔境・ウツロの森』の南、キワイ大草原の自治を許されていた。

 ジャヴァー族の王子として、古臭い伝統や堅苦しいしきたりにがんじがらめになっていたベラマッチャにとって、空想することが全てを忘れさせてくれる唯一の自由な時間なのだ。

 ベラマッチャは今の生活に満足していたが、王子という立場だけは苦痛を感じる事があった。

「さあ、もうすぐ村につくぞ」

 ベラマッチャは早く家族に獲物を見せたい一心で、急ぎ足で歩き始めた。

 最近、獲物が少なくなっている。蛮族がキワイ山付近に出没して狩り場を荒しているという噂も聞いている。

 いろいろなことに思いを巡らせながら、ふと前を見ると、道の向こうに何者かが倒れている。悪い予感がベラマッチャの頭を過ぎり、あわてて駆け寄ってみると村の男が血の海の中でのたうち回っているではないか!

「カロトス! しっかりしろ! いったいどうしたんだ!」

「ううっ……蛮族が……カダリカが……」

 カロトスは胸を掻き毟りながら呟き、そのまま息絶えた。

 ベラマッチャは獲物をそこに置いたまま槍を握り締め、ペニスケースを揺らしながら村に向かって走りだした。

 全速力で村まで走って行ったベラマッチャの目に、衝撃の光景が飛び込んできた!

「うわぁぁーっ!」

 ベラマッチャは夥しい数の死体が転がる凄惨な光景に叫び声をあげ、その場で呆然と立ち尽くした。

「おい! あそこにもいるぞ!」

 叫び声を聞いた兵士が、ベラマッチャの元に走り寄ってきた。

 ベラマッチャは咄嗟に槍を振り回し、兵士に向かい突っ込んでいった。兵士は剣を振り下ろして来たが、一瞬早くベラマッチャの槍が兵士の右目に突き刺さった。

「うぎゃぁぁっ!」

 兵士は断末魔の悲鳴をあげて仰向けに倒れた。槍を抜きそのまま前に進もうとした瞬間、ベラマッチャの脳天に激痛が走った。

「げぇっ!」

 後ろを振り返ると男が棍棒を持って立っていた。ベラマッチャの顔は激痛で歪み、目の前で星がチカチカしている。槍を支えにしてなんとか倒れることを防いだが、目が回り動くことができない。

「この野郎! よくもやりやがったな!」

 周りに居た兵士達がベラマッチャの元に走り寄ってきて、あっという間に殴り倒されてしまった。

「このガキ、ブチ殺してやる!」

 兵士の一人が持っていた槍に突き刺される刹那、他の兵士が止めに入った。

「待て! 裸族どもの王子を探せとの命令だ。ひょっとしたらこのガキかもしれん。カダリカ様の前に連れて行くんだ」

「チッ! 運のいいガキめ!」

 ベラマッチャを殴った兵士はニタリと笑い、残念そうに吐き捨てた。

両足を兵士達に持たれて引きずられながら、ベラマッチャは悔しさと情けなさで啜り泣きはじめた。

「おい、このガキ泣いてるぜ!」

 兵士の一人が愉快そうに声を張り上げると、他の兵士達がドッと笑いながら口汚なく僕を罵りだした。

「どうした小僧、ママのオッパイが欲しいのか」

「そいつは無理だぜ。女どもは俺達の仲間の餌食になってるぜ!」

「ヘヘヘ……そういやカダリカ様は酋長の目の前で娘を犯してたっけな」

「まったく好きだぜ、うちの大将も」

 兵士達の会話を聞いたベラマッチャは発狂しそうなほどの怒りを覚えた。

「君達は獣だ! 自分達のやったことが恥ずかしくないのか!」

「五月蝿え! 裸族のガキめ!」

 隣を歩いていた兵士がムカついた顔をしながら、ベラマッチャの腹をおもいきり蹴飛ばした。

「ほげぇっ!」

 ベラマッチャは痛みで身体を捩じらせ、嘔吐した。両足を持たれ仰向けに引き摺られていたので、顔に自分の汚物をぶちまけてしまった。

 それを見た兵士達は再び笑った。

「小僧、あれがカダリカ様だ」

 村の広場まで引き摺られて来られたベラマッチャは兵士達に手荒に投げ出され、這いつくばったまま正面を見た。

「あぁっ! マミーッ!!」

 ベラマッチャは叫んだ! 目の前にいる男は馬に乗ったまま母を犯しているのである! そして母は、男の腰使いに答えるように喘ぎ声を漏らしているではないか!

「あぁ……くぅぅっ、後生! 見ないでアンソニー!」

 心とは裏腹に、男のキツイ責めに身体が答えてしまっている姿を息子に見られまいとしたのか、母は顔を背け哀願するように叫んだ。

「ガッハッハッ! そうはいかん。このガキにはお宝の在処を吐いてもらわねばならんからな!」

 ベラマッチャはギクリとした。この村で宝物といえるものは、先祖代々受け継がれて来た『野獣の角笛』しかない。角笛はキワイ大火山神の眠りを醒ます、ジャヴァー族門外不出の秘宝だ。

(何故、野蛮人が角笛の事を知っとるのだ?)

 ベラマッチャは激痛でフラフラしながら立ち上がり、カダリカを睨みつけた。

「この村に宝物なんかない!」

 ベラマッチャの毅然とした態度と、紳士の威厳を込めた言葉にカダリカはニヤリと笑い、腰の動きを止めた。

「ウフフッ……母親にもう少し楽しんで貰わんといかんらしいな。どれ、こんどは後ろの方を楽しませてやるか」

「あぁっ! あぁぁっ! 堪忍!」

 カダリカが体をモゾモゾと動かすと母は嬌声をあげながら、歓喜の表情を浮かべて失神した。

 犯されて嬌声をあげた母の姿を目にしたベラマッチャは、狂い出さんばかりに怒った。

「獣め! 君達は人間じゃない! この村になんの恨みがあるのかねっ!」

 カダリカはベラマッチャの怒鳴り声を無視して、母を相手に腰を使い続けている。

「くうぅっ! この締り……この女、裏門も使い込んでおるな。フッフッフ……貴様等に恨みなどはない。ワシは『野獣の角笛』を戴に来ただけだ。貴様も早く吐かんと親父のようになるぞ」

 ベラマッチャはハッとした。そういえば父と姉の姿が見えない。ベラマッチャは再び怒りを露にして、馬上で母を相手に腰を振るカダリカを睨んだ。

「ダディーとシスターはどうしたのかねっ!」

「貴様の親父は反抗的な態度だったので八つ裂きにしてくれた。姉はこの女と同じ目に遭わせたら、舌を噛み切りおったわ。角笛の在処を喋らんと、貴様も地獄へ旅立つことになる」

 周りにいた兵士達が剣を抜き、ベラマッチャを取り囲み始めた。

 死の恐怖に直面して、いつの間にか失禁してしまっている。死にたくない、それだけが頭を支配していた。こんな凶暴な連中は見た事がなかった。

「わかった。角笛は渡す。その代わりマミーを放してくれたまえ」

「それが利口だ。さあ、角笛を渡せ」

 ベラマッチャは尿塗れのペニスケースを外し、兵士に差し出した。

「これでいいだろう。早くマミーを放したまえ」

 ベラマッチャは緊張の糸が切れ、その場にヘタり込んだ。

 兵士がカダリカに近づいてペニスケースを差し出すと、カダリカは腰の動きを早めた。カダリカは鼻腔を広げてウッと呻き、身体をブルルッと震わせると母を地面に投げ捨て、兵士の手から角笛を奪い取った。

「ついに『野獣の角笛』が我が手に! これでキワイ山の魔神はワシの意のままだ!」

 カダリカは角笛を高々と掲げ、歓喜の表情を浮かべた。

「マミー!」

 ベラマッチャは母の元へ行こうとしたが、腰が抜けて動けない。

 その時、カダリカの冷酷な声が響いた。

「その女を渡すな! 息のある者は皆殺しにしろ!」

「それでは約束が違う! 助けてくれる筈ではないのかねっ!」

 カダリカは怒りに震えるベラマッチャを馬上から見下ろし、せせら笑っている。

「誰が助けるといった。ワシは角笛を渡せと言っただけだ」

「卑怯者! 君たちは人間のクズだ!」

「クズだろうがゴミだろうが、角笛さえ手に入ればそんなことはどうでもいい。それより貴様には面白いことをしてもらおう」

「ヘヘヘ……ショーの始まりだぜ」

 カダリカがニヤニヤしながら指をパチンと鳴らすと、兵士が母を引きずって来てベラマッチャの前に乱暴に放り投げた。

「なんて乱暴な! マミーをレディとして扱いたまえ。しかしキミィ、いったい僕に何をしろというのかね?」

 ベラマッチャはカダリカの真意を図りかねた。ベラマッチャ達の命はカダリカの自由になる筈である。踊りを踊らせようとしているとも思えない。

「貴様、その女を殺せいっ!」

 カダリカは母を指差しながら大声で言い放った。

(この男は何ということを考えるのだ……母を殺せとは悪魔の思考をしとるっ!)

 ベラマッチャは絶句して立ち尽くした。暫く考え込んだ後、カダリカの顔を見ながら搾り出すような言葉を口にした。

「もし嫌だと言ったら?」

「知れたこと、貴様にも母親にも死んでもらう」

「ではマミーといっしょに殺してくれたまえ」

 ベラマッチャは母と共に死ぬ覚悟をした。村が無くなり家族もいなくなるのならば、生きていても仕方なかろう。

「フフフ……そう言うと思った。では、せめて男として死なせてやろう。槍を持って構えろ。おい! 貴様ら母親を立たせろ!」

 ベラマッチャは言われるままに槍を持った。兵士達は母を蹴飛ばし、気絶していた母を無理矢理起こした。母はフラフラと立ち上がったが、どうも様子がおかしい。ヨダレを垂らし、ニタニタ笑っている。

「どうやら母親は気がふれたらしいな。天国気分を味わいながら天国へ行けるというわけだ。実に運がいい」

 カダリカの頓知の効いたジョークに兵士の一団が爆笑の渦に包まれた。

「今日はワシのジョークも冴えておる」

 カダリカがニンマリとして顎を撫でたその時、母が何事かを喚きながらベラマッチャに向かい突進してきた。

「あっ! マミーッ!」

 驚いたベラマッチャが咄嗟に体を逸らすと、ドスン、という衝撃が腕に伝わり母の悲鳴がこだました。

 ベラマッチャは槍に刺さった母を一瞬不思議そうな顔で見ると、パッと槍から手を離し、両手で頭を抱えて狂ったように叫びつづけた。

「ギャアァァァァーッ! マミィィィーッ! オゥ、マミィィィーッ!」

「ガッハッハッ! こいつは手間が省けた! 勝手に殺すとは間抜けなガキめ!」

 カダリカは馬上で大笑いしながらベラマッチャを罵り、天に向かって高々と角笛を掲げると、兵士達は一斉に勝利の雄叫びをあげた。

「カダリカ様、あのガキはどうするんで?」

 兵士の一人がベラマッチャの処分をカダリカに尋ねたが、カダリカはそんなことには興味がなさそうに角笛をいじっている。

「あのガキはもう腑抜けよ。放っておいてもどうと言うことはない。それに角笛さえ手に入ればこんな村に用はない」

 カダリカの言うとうり、ベラマッチャは母の亡骸を抱えて泣き続けている。

「さあ、次の目的地へ行くぞ!」

 蛮族の一団は去っていった。

 まるでイナゴの大群である。彼らに襲われた村は全て破壊され、皆殺しにされてしまった。

 後に残されたベラマッチャは放心状態のまま、母の亡骸を抱えていた。

 やがてベラマッチャは母の亡骸を抱きながらヨロヨロと立ち上がると、村外れにある墓地へ向かった。先祖代々の墓の前に母の亡骸をそっと置き、近くにあった棒切れを集めて火を点けた。

 何時の間にか辺りは暗くなっている。ベラマッチャは家の中からスコップを持ち出し、穴を掘り始めた。

「うぅっ……マミー……」

 ベラマッチャは優しかった母のことを思い出しながら、ひたすら穴を掘りつづけた。楽しかった過去の日々が昨日のことのように甦ってくる。

(ダディー……マミー……シスター……そして村の人達……皆死んでしまった。僕は一人ぽっちになってしまった……)

 ベラマッチャは穴を掘りながら両親や村人達を思い出し、また泣いた。

 穴を掘り終わったベラマッチャは家族の遺体を穴の前へ集め、死者に対して祈りを捧げると、落ちていた小枝を短く二つに折って鼻の穴と下唇に当てがい、突如、母の亡骸を抱えて踊り始めた。

「ア~ラ! エッサッサ~ッ!」

 ベラマッチャは涙で顔をグショグショにしながら弔いの踊りを踊った。踊りながら、長老の言葉を思い出した。

(アンソニーよ……ジャヴァー族の男は何よりも誇りを大切にするのだ……)

 その言葉を思い出し、ベラマッチャは死ぬことを考えた事と、村人を皆殺しにされても何もできなかった自分に対して怒りがこみ上げてきた。

「僕はなんと愚かで小心者なのだ……このままでは家族と村の皆に顔向けが出来ないではないか。彼等に復讐し一族を再興しなければ……」

 ベラマッチャは復讐の鬼と化し、『野獣の角笛』を取り戻し一族を再興する決意を固めた。

 家族の遺体を埋葬し一息ついた時、自分が全裸で居ることに気づき、ベラマッチャは思わず吹き出してしまった。何か着るものをと家の中を探すと、成人の儀式をした時に着けた黄金のマワシが出てきた。

(――そうだ、僕は王子である前にジャヴァー族の紳士なのだ……)

 小柄なベラマッチャには凄くマワシが余り独楽の様な姿になってしまうが、先祖伝来のスモウレスラーの装束であるマワシを身に着けてみると、全身に気合が漲ってくる。

(これなのだ、僕に足りなかったものは……)

 黄金色に輝くマワシを締めて気合を入れると、ベラマッチャは自分になにが足りなかったのかに気づき、西に聳え立つキワイ山を睨みつけるように見つめた。

「キワイ大火山神よ! 僕の復讐に御加護を! 彼等に正義の鉄槌を下したまえ!」

 キワイ山の魔神にカダリカへの復讐を誓い、村から最も近いポロスの街でカダリカ一味の情報を集めようと、落ちていた弓矢を手にベラマッチャは北の方角に向かって歩き出した。

 暫く歩くと、前方に森が見えてきた。以前から絶対に入ってはいけないと教えられてきたウツロの森である。

「――ここを通り抜けないとポロスの街へ行くのに、かなり遠回りをしなければならない。しかし、ここは禁断の森だ……」

 森を通り抜けようか、それとも回り道をしようかかなり迷ったが、一刻でも早く復讐を遂げたいベラマッチャは森を通り抜けることにした。

 森の中は想像以上に異様な雰囲気である。そのうえ夜なので周りがよく見えない。時々聞こえる動物の鳴き声にドキッとしながらも、慎重に歩を進める。

 道がまったくないので草をかき分けながら歩いて行く。ベラマッチャは草を掻き分けながら、ウツロの森を通り抜ける方法を選んだことは、失敗だったかもしれないと悔やみはじめた。

 森に入ってからかなりの時間が過ぎたが、自分がどのあたりにいるのかまったく分からない。先ほどから思い出されるのは、幼い頃から聞いてきたウツロの森の怪異の事だけである。

(ウツロの森に樹の生えていない広場のような一角がある。そこは生者の世界と死者の世界を繋ぐ、人間が足を踏み入れてはいけない場所である。幽霊の歌声が聞こえたら、死者の世界への扉が開かれたという事だ……)

 森の奥へと歩を進めながら、長老に繰り返し聞かされた話を忘れようとカダリカの憎々しい顔を思い浮かべ、ひたすら歩き続けた。

(一刻も早く森を抜けなければ、死者の世界に迷い込んでしまう……)

 森への進入者を死者の世界へ誘うという、幽霊の歌声を聞かないように祈りながら進んでいたベラマッチャの耳に、微かに歌声のようなものが聞こえてきた。

「でっ、出たっ! 幽霊だ!」

 焦ったベラマッチャは歌声の聞こえてくるのとは反対の方向に走りだした。しかし、走っても走っても歌声は聞こえなくなるどころか、どんどん大きくなって来る!

 逃げる途中、樹の枝にぶつかったり石ころに躓いたりしたが、恐怖のため痛みなど感じる暇もない。盲滅法走っているうちにやっと歌声が小さくなってきたので、ベラマッチャは走るのを止め、その場で息を整えた。

「あぁ疲れた。やっと聞こえなくなった」

 恐怖と疲労のため一休みすることにしたベラマッチャは、目の前に石があるのを見つけて腰を下ろした。

 心臓が破裂しそうなほど鼓動が早くなっている。呼吸を整えながら、ふと顔を上げると茶色いマントを着た人物が前方に立っているではないか。

「有り難い、僕の他にも迷っている人が居るとは……僕の名はアンソニー・ベラマッチャ、君もこの森で迷ってしまったのかね?」

 ベラマッチャは嬉しさのあまり、茶色いマントを着た人物の傍へ行き話しかけた。しかし目の前の人物から返事がない。

「キミィ、失礼ではないか。返事くらいしたまえ」

 少しムッとして更に話かけてみたが、黙ったままである。

 不思議に思ったベラマッチャは、更に茶色いマントの人物に近づいてみた。

「失礼、キミは耳が聞こえないのかね?」

 顔を覗き込んだ瞬間、ベラマッチャは恐怖で足が竦んだ!

 なんと、マントの人物は死んだ筈の父なのである! 遠くに居た時にはよく見えなかったが、左手に髑髏、右手に小さい骨で出来た首飾りを持っている。

「こっ、これはいったい……」

 後ずさりしながら周りを見渡すと、その場所だけ樹が生えておらず、広場のようになっており、父は断崖絶壁の手前に立っているではないか!

「ダッ、ダディ……僕を迎えに来たのか……」

 ベラマッチャはパニック状態に陥った! しかし足が竦み、身体の震えが止まらず動くことができない。

 父が右手に持っている骨の首飾りをユラユラ揺らすと、左手に持っている髑髏が唄い出した。

「お前の奪われたものを取れ……お前の血と魂もだ……どの雲にも銀の縫い込みがあるわけじゃない……」

 一歩、二歩と父は間合いを詰めて来る。

 ベラマッチャは気力をふりしぼり、全速力で逃げ出した。だが最初に歌声を聞いた時と同じで、唄声は大きくなるばかりである。

 やがて歌声は不気味な笑い声に変わった。

「ハッハッハッ! アンソニ~! 地獄へようこそ!」

 その声が聞こえて来た瞬間、ベラマッチャは体が宙に浮くように感じた。

「ギャァァァーッ! な~んてことだぁ~っ!」

 ベラマッチャは崖から落ちた事を悟った。落下しながら、これまでの人生が走馬灯のように脳裏を過ぎ、やがてベラマッチャは意識を失った。


2017年11月8日Feel The Darkness