第一話 Knife Edge 其の5

2017年9月6日オカマ地獄変

「ザーメイン、大変な事になっちゃったのよん。シャザーン卿ったら、止せばいいのに賭場で大勝負しちゃって……」

 そこまで話すとヘンタイロスは言葉を詰まらせ俯いた。ポコリーノが顔を覗き込むと目に涙を溜め、今にも声をあげて泣き出しそうな顔をしている。それどころか鼻からは鼻水が垂れ下がり、鼻の穴から顎までの間を伸び縮みしながら移動していたのだ!

 摩訶不思議な光景に見惚れていたポコリーノは、ヘンタイロスの鼻水が『ズズズッ』という音と共に鼻の穴に吸い込まれたところでハッとして我に返り、ヘンタイロスに代わってザーメインに事情を説明し始めた。

「それでシャザーン卿の奴は負けちまったんだが、金貨三百枚なんて大金が払える筈もねえ。奴は逐電し、一緒にいたベラマッチャが借金の形に取られて舐め犬にされちまったらしい。要するに賭場荒しをしちまったって訳さ。しかもイザブラー親分の息が掛かってる賭場だぜ! 奴は借金を払わなきゃ姿を現す事も出来ねえし、ベラマッチャだって強引に連れ帰る訳にもいかねえ。それで知恵を借りようと思って来たのさ」

 ポコリーノの話しを聞いていたザーメインは腕を組み、ウ~ンと唸ったきり考え込んでしまった。考え込むのも当然だろう。賭場に落ち度は無く、全面的にシャザーン卿が悪いのだ。負けた金が払えなければ、本人や連れが借金の形に取られて売られてしまうのはよくある事である。博打に入れ込み、女房子供を売る男までいるのだ。

 ポコリーノが考え込むザーメインを見ながら溜息を吐き、紅茶を一口飲んだところでザーメインはやっと重い口を開いた。

「――シャザーン卿のやった事に言い訳は出来んのぅ。稼業の博打場を荒されてはイザブラー親分も許してくれまいて……。金貨三百枚、利息を合わせても二人で必死に働けばなんとかなるじゃろうが、金が溜まるまでベラマッチャの身が持つかの……」

 ザーメインの言葉に、ヘンタイロスは涙を拭き顔を上げた。

「ザーメイン! ベラマッチャは死んじゃうのん!?」

「死ぬと決まった訳ではない。ただ舐め犬という仕事は大変な仕事だという事じゃ。一日に何人もの客を取らされ、口と手を使って女を絶頂に導く。本番は無しという事になっとるが、快感に耐え切れずに摩羅を求める女が多いと聞いておる。そんな過酷な仕事、すぐに身体がボロボロになってしまうじゃろう。店によっては死ぬまで働かせるために、ポンの実を使っとるそうじゃ」

 ザーメインの話しを聞いたヘンタイロスは目に涙を溜め、無言で再び俯いてしまう。

 ポコリーノは、そんなヘンタイロスの肩を力強く叩いて無言で元気付けると、ザーメインに向き直った。

「やっぱり地道に稼ぐしかねえのか……。それにしてもザーメイン、随分と風俗事情に明るいんだな」

「――ワシは王の顧問をしておった頃、風俗組合の理事たちに頼まれて理事長をしておったのじゃ。理事長を引き受けるからには業務内容を知らねばならんからのぅ」

 ザーメインは右手で顎髭を摩りながら珍しく不敵な笑みを浮かべ、ポコリーノの疑問に答えた。

 ポコリーノは堅物のザーメインが風俗組合の理事長をしていた事に驚いたが、堅物だからこそイドラ島中の風俗店に生真面目に通い、業務内容を把握したに違いないと思い直し、妙に納得してしまった。

2017年9月6日オカマ地獄変