第六話 Horror Business 其の3

2017年11月8日カツラ大戦争

 ベラマッチャたちは森の中で立ち止まり、辺りを窺いながら茂みに身を潜めた。

 シャザーン卿はベラマッチャに目配せしてヘンタイロスから降りると、用心深く家屋に近づいて行く。

 ベラマッチャはシャザーン卿の背中を見ながら、ヅラスカヤに身の上を尋ねた。

「レディ、何故エージェントなどという危険な仕事をしとるのだ? 家族はおらんのかね?」

「亭主と子供は病を患って死んだわ。腕の良いカツラ職人だったけど……。王宮のカツラ工房で職人のアシスタントを募集してるって、瓦版の三行広告を見かけたの。給金がよかったから面接を受けに行ったのよ」

 そう言うと、ヅラスカヤは下を向いた。亭主と子供に死なれ、生きるために必死に働いてきたのだろう。大陸との戦争で混乱している昨今、女一人で稼ぎ、生きていく事がどれほど辛いのか、ベラマッチャにも容易に想像できる。

 ベラマッチャはそれ以上聞こうとせず、シャザーン卿に目を向けた。

 シャザーン卿は慎重に家屋に探りを入て扉に耳を当てると、腹巻から何か取り出して扉の鍵穴に入れ、鍵を開け始める。

 暫く鍵穴を弄った後、シャザーン卿が振り返り、ベラマッチャたちに手招きで合図を送ってきた。

 ベラマッチャたちは慎重な足取りで家屋に近づくと、背の高いパンチョスが壁に張り付いて窓から中を覗く。

「誰も居ないぜ」

 パンチョスの言葉を聞いたシャザーン卿が、音を立てないように扉を開けると、ポコリーノを先頭に全員で部屋へ飛び込んだ。

「うおッ!」

 薄暗い室内の壁一面に、夥しい数の人形の頭が付けられており、全ての頭にカツラが被せられていたのだ!

 ベラマッチャたちは圧倒的な量のカツラに見蕩れ、その場に立ち尽くした。

 長髪、リーゼント、パンチパーマ、モヒカンなど、カツラは全て違うヘアスタイルである。

「あれ見てよん、角刈りのカツラがあるわん」

 ヘンタイロスの指し示す方向を見ると、確かに角刈りのカツラが並んでいる。髪の質感など、本物と見分けがつかないほど精巧だ。カツラスキーが超一流の職人である事が良く分かる出来栄えである。

「P.P.、あれを見てみろ。伝説の宮廷音楽家、ベントーベンのカツラだぜ」

 パンチョスの示す指の先には、王宮の貴族の様なヘアスタイルのカツラがあった。


2017年11月8日カツラ大戦争