第四話 Death,Agony and Screams 其の4

2017年11月8日カツラ大戦争

 ホテルの前には煌々と松明が灯り、五階建ての建物は不夜城のように輝いて見える。

 玄関前には五段の階段があり、その上のポーチでは屈強そうな男が腰から剣を下げ、客の出入りの度に軽く会釈し、扉の開けたり閉めたりしていた。

 シャザーン卿はヘンタイロスから降りると建物の間の路地へ入り、ベラマッチャたちを手招きした。

「渡世人姿の男が集団で行っても、中には入れんじゃろう。全員、カッパ・マントとサンドガサ・ハットを脱げ」

 シャザーン卿の言葉に全員従い、サンドガサ・ハットとカッパ・マントを脱いだ。

「シャザーン卿、何か考えがあるのかね?」

「余に任せておけ。貴様等、続けい!」

 シャザーン卿を先頭に、一行はホテルの正面玄関へ向かった。ベラマッチャたちが階段を昇り始めると、警備の者が訝しげな顔で顔を向けた。

「賭場で金貨百枚もスッてしまったわい!」

 シャザーン卿が警備の男たちに冗談めかして言うと、警備男たちはハッとした顔になり、「お帰りなさいませ」とベラマッチャたちに軽く頭を下げて、入り口の扉を開けた。

 ベラマッチャたちは侵入に成功した!

 そのまま中へ入ると、昼間と間違えそうなほどの灯火の中、目の前に広いロビーと、右手に受付が見えた。

 シャザーン卿の後に付いて受付に向かうと、若い女もまた、「いらっしゃいませ」と頭を下げる。ベラマッチャは親切そうな女を見て安心し、『ヅラスカヤ』という女が泊まっているか聞く事にした。

「レディ、このホテルに……」

 そこまで喋ると、ベラマッチャの目の前にシャザーン卿が右手を突き出し、カウンターに左肘を付くとリズミカルに身体を揺らしながら、軽いノリで女に話しかけた。

「ブックジョウの女衒情報誌『嫁売新聞』の記者じゃが、予約しておった部屋へ案内して貰おうか」

 若い女は、「少々お待ちくださいませ」と言うと宿帳を捲り始め、やがて困惑した顔になった。

「――お客様、申し訳ございませんが、『嫁売新聞』の方のご予約は入っていないのですが……」

「そんな筈はあるまい。『アンチョビー・ボラマッチャ』の名前で六人分の予約を入れた筈じゃが?」

 予約など入っている訳がない。ベラマッチャたちは初めてこのホテルに来たのであり、『アンチョビー・ボラマッチャ』なる名前は、明らかにベラマッチャの変名である。嫁売新聞などという情報誌も、適当に言っているだけに違いない。

 ベラマッチャはポカンと立ち尽くし、シャザーン卿が何をしているのか理解できないでいた。周りを見れば、ヘンタイロスも、ポコリーノも、パンチョスも、そしてスッペクタまでもが口を半開きにしてシャザーン卿を見つめている。

 困惑顔の女はオロオロしながら、再び宿帳を捲り調べ始めた。

「やはりご予約は入っておりません……」

 皆が唖然と見つめる中、女の一言にシャザーン卿が大声をあげた!

「予約したのに予約されてないじゃとッ! 不埒者めが! 三流誌の者じゃと侮っておるなッ! ワグカッチに遊びに行っても、このホテルには泊まるなと書いてやるわい!」

 ホテルのロビーにシャザーン卿の怒鳴り声が響くと、宿泊客も従業員も皆こちらを向いた。

 ざわめくロビーで、怒りの形相のシャザーン卿が、今にも泣き出しそうな顔の女を睨んでいると、恰幅の良い、上等な服を着た年配の男が不安そうな面持ちで近づいて来た。

「――お客様、当方の手違いで大変ご迷惑をお掛け致しました。スイートルームにご案内致します」

 年配の男はシャザーン卿に向かい、揉み手で何度も頭を下げた。

「余が予約を入れたのは、一番安い部屋じゃが?」

「一番安い部屋は満室でございます。代わりにスイートルームをご用意させて頂きます」

「経費節減の折、一番安い部屋の宿代しか持ち合わせとらんが?」

「宿代は結構でございます。ささ、ご案内致します」

 年配の男は指をパチンと鳴らしてボーイを呼ぶと、スイートルームへ案内するよう告げ、ベラマッチャたちに向かって深々と頭を下げた。


2017年11月8日カツラ大戦争