第二話 Teenage Robotomy 其の8

2017年11月8日カツラ大戦争

「三ヶ月くらい前、集会が終わって友達の家に行く途中で出会ったんだ。ムチムチの身体でエロい格好してたよ。最初は立ちんぼかと思ったけど、『道に迷ったからホテルまで送って欲しい』って言うんで、馬に乗せて送ってやる事にしたんだ」

 男は息をつき、ベラマッチャ達を見回してから再び喋り始めた。

「オバサンは馬に乗ると、俺の身体に両手を回してしがみ付いてきた。オバサンがつけてる香水は何とも言えない良い匂いだし、柔らかい身体をグイグイ密着させてくるもんだから、俺の股間は大きくなっちまった。そしたらオバサンは、俺の息子に手を伸ばして弄り始めたんだ。オバサンが俺の息子を弄りながら『姦りたいか?』って聞くんで、姦りたいって返事したら、泊まってる部屋へ連れて行かれたんだ」

 そこまで話すと男は下を向き、黙り込んでしまった。

 ベラマッチャは続きを聞き出そうと男の傍らにしゃがみ込み、目を見据えながら話しかけた。

「それで……、どうだったのかね? 熟女の味は?」

 暴行族の男は好色そうな表情を浮かべてベラマッチャの顔を見た。

「それが凄えの何の! あんな技でイカされたのは初めてだったぜ! もの凄いテクニシャンだったよ」

 ベラマッチャは男の話を聞き考え込んだ。おそらく事が済んでから、熟女は男にカツラを被せたのだろう。男の話を聞く限り、カツラを被ってプレイしたとは思えない。その熟女こそ、銅像が聳え立つ台座の上で男が叫んでいた『ヅラスカヤ』なる女だろう。

「なるほど。そして熟女の頼みというのが、カツラを被る事だったのだな?」

「そうなんだ。何でもカツラ販売店の営業でワグカッチに来たから、宣伝のためにカツラを被って欲しいって言われたんだ。ダサい七・三分けのカツラだったけど。でも、カツラを被ってから今まで、何も覚えてないんだ……」

 男の話に、ベラマッチャは、この一件には裏があると直感した。暴行族の若者たちが自ら、稼業人にまで喧嘩を売る様な真似をする訳がない。

 ベラマッチャは男を見ながらふと、この若者の名前すら知らない事に気付いた。

「キミィ、そう言えば名乗っていなかったな。僕はアンソニー・ベラマッチャ。こちらはシャザーン卿とポコリーノ君、ヘンタイロス君だ。君の名前は?」

「ベラマッチャ……。どっかで聞いた名前……。俺はスッペクタ」

「聞いた事があるかね? カダリカ一味を殺った男たちとして、イドラ島では多少、名前が売れとる」

 ベラマッチャはスッペクタに恐怖心を抱かせないよう、微笑みながら答えた。

「カッ、カダリカ一味を殺った連中!」

 それでもスッペクタは仰天し、恐怖で顔を引き攣らせながらガタガタと震えだした。

 ベラマッチャは、これ以上聞き出すのは無理だろうと思い、家までスッペクタを送ってやる事にした。

「諸君、彼の様子では、これ以上聞き出すのは無理だろう。彼を送ってやり、僕等も帰ろうではないか」

「そうするかのう」

「どうやら裏があるぜ、この一件は。明日から出直しだな」

 シャザーン卿たちも、この一件には裏があると睨んでいるようだ。

 ベラマッチャはスッペクタを立たせ、家の場所を尋ねた。

「家まで送ろう。場所はどこかね?」

「両親が死んでから、家には帰ってないんだ。俺は拾われた子供だし、住んでた家は親戚に取られちまったから、今は友達の家を泊まり歩いてる」

「拾われた?」

「あぁ、流行り病を罹って、ダウーギョの街のザブルド川の河原に捨てられてたって聞いてる。フォックス・チャーチの赤いお守りに、スッペクタって名前が書いてある紙が入ってたんだ」

 そう言うと、スッペクタは首から下げたお守りを取り出し、ベラマッチャ達に見せた。

「いつか本当の親に会えるかもしれないだろ? だから大切に持ってるんだ」

 スッペクタは愛おしそうな顔でお守りを見つめ、まだ見ぬ生みの親と再会したいという夢想を語った。

 ベラマッチャは、生みの親に捨てられ、育ての親とも死に別れたスッペクタに同情し、無言でスッペクタの肩を叩いた。

「では僕等が泊まっとる家へ来るといい」

 そう言うとベラマッチャ達は、白み始めた空の下を、スッペクタを連れてマラッコの家に向かって歩いて行った。


2017年11月8日カツラ大戦争